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積極財政なしには万博も成功しない!〈前編〉

万博の「コスパ」を考える

■万博のコストパフォーマンスを考える

 まずは2025年大阪万博について、コストと便益をチェックしましょう。
 経産省が2017年に発表した試算によれば、万博開催に際し、主催者側である政府や自治体が受け持つ費用は、会場建設費が約1250億、事業運営費が約830億、関連事業費(夢洲への地下鉄延伸や、道路改良の費用など)が約730億以上となっています。
 (※)建設費については、一部を民間が引き受けることも想定されています。
 http://www.meti.go.jp/press/2017/04/20170407004/20170407004-3.pdf

 合計すると2810億ですが、万博に参加する途上国にたいして、日本は約240億の援助を約束していますので、足すと3050億。
 ただし、これで全部ではありません。
 政府や自治体は、外国政府、国際機関、民間企業などと並んで、万博に出展もするからです。
 ところが出展をめぐる費用(出展事業費)は、そもそも金額の見積もりが記されていない。

 会場建設費や運営費にも、先の数字とは別に、出展者側の負担する分がそれぞれ650億と1460億、計2110億あるんですね。
 ならば、この一部も政府や自治体が持つことになるのではないか。
 先の3050億に、500億程度は足しておくのが無難でしょう。
 合計で3550億円。

 しかも2020年東京オリンピックの場合、当初「世界一カネのかからない五輪」と謳われ、8000億程度ですむはずだった予算が、いつの間にか3兆円を超えかねない顛末になりました。
 万博にしたところで、本当に3550億で開催可能かどうかは分かりません。オリンピックと同程度、つまり当初予算の3.75倍に膨らむとすれば、費用は1兆3000億あまりです。

 

 ならば便益のほうはどうか。
 万博によって生じる消費支出(来場者による交通、宿泊、飲食、買い物、サービスなど)の試算は7000億円です。
 加えて経済波及効果が、建設費・運営費・消費支出の分を合計して1兆9000億円。
 しめて2兆6000億。

 出展事業費がもたらす波及効果を考えれば、3兆円に達する可能性が高いでしょう。
 関連事業は、万博をきっかけとした交通インフラや都市インフラの整備なので、波及効果はひとまず脇に置きます。

 3550億で開催できれば文句なし。
 オリンピック並みに費用が膨れあがったとしても1兆3000億ですから、3兆の経済効果があれば割に合います。
 というか、その場合は建設費・運営費・出展事業費の波及効果が増えるはずなので、経済効果も4兆ぐらい行くかも知れません。

(※)ただし波及効果の額は、費用が膨れあがる割合ほどには増えません。ここでいう「費用」は、主催者側である国や自治体が負担するものを指しますが、すでに述べたとおり、万博の建設費・運営費・出展事業費には、出展者側が負担する分もあるためです。

 夢洲の開発には、すでに1兆円が使われたとのことながら、万博開催決定以前より生じていたコストなのを思えば、すべて費用に含めるべきかどうかは議論の余地があります。
 しかし、この1兆をそっくり計上したところで、総費用は最大で2兆3000億。
 やはり割に合う。

 とはいえこれは、経済活性化の起爆剤と評価しうるものか?
 この点については後編で取り上げます。

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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